iQOSなどの『加熱式タバコ』の増税が検討されているとの報道がありました。
朝日新聞によれば、
財務省が2018年度税制改正で、たばこ税の増税を検討していることが分かった。19年10月の消費増税時に導入する軽減税率で、目減りする1兆円規模の税収の一部を穴埋めする狙いがある。ただ、愛煙家やたばこ農家の反発も予想され、調整は難航しそうだ。
…とのことです。
税収の穴埋めという大きな目的もありますが、加熱式タバコがもたらす健康被害も明らかになっていることから、これを規制する目的もあるように思います。
そこで、この記事では加熱式タバコについての知識(種類と流行中の理由)と、規制の対象になった理由のひとつと考えられる、加熱式タバコの健康被害に関する研究例をご紹介したいと思います。
30秒でわかる記事の概要
加熱式タバコとは?
まずは、『加熱式タバコ』とはどんなものかについて知っておきましょう。
加熱式タバコとは、従来のタバコのように火を使い燃やすのではなくで、加熱して煙を発生させるのが特徴の新しい形式のタバコのこと。
禁煙が進み、従来のタバコの販売状況が芳しくないため、タバコメーカーが新たに打ち出してきた製品です。
嫌煙者に配慮し副流煙の削減効果を謳っていますが、実際にはその効果は皆無(詳しくは後述)のようで、喫煙者の間でブームを起こす一方、新たな問題を生んでいます。
ちなみに英語では『Heat-not-Burn』と呼び、火を付けて燃やすのではなく、加熱するのだという意味がそのまま反映されている名称になっています。
日本国内で流通している加熱式タバコ
続いては、日本国内で販売されている加熱式タバコの種類を具体的に見ていきましょう。
代表的な製品3種類をご紹介します。
iQOS(アイコス)/フィリップ モリス ジャパン
最も有名なのは、iQOS(アイコス)ではないでしょうか。
マールボロやラークなどで有名なフィリップ モリス ジャパンの製品です。
2016年に放映されたテレビ朝日の人気番組『アメトーーク!』内で紹介されたのをきっかけに大ブームを起こし一気にその名が知れ渡り、一時、ネットでも品切れ状態が続いたことは記憶に新しいことと思います。
その影響からか、オークションやフリマサイト等でも手品数は増加。トラブルに繋がるケースも発生しているとか。
現在では一部地域(首都圏と大阪・兵庫、宮城)のコンビニでも販売されており、また、直販店である『アイコスストア』も各地域に続々とオープンし、今や加熱式タバコ=iQOS(アイコス)というイメージが定着しています。
Ploom TECH(プルーム・テック)/JT
Ploom TECH(プルーム・テック)は、JTが発売している加熱式タバコです。
実は、iQOS(アイコス)よりも販売されたのは先。当時は『Ploom(プルーム)』として販売していたそうですが、結果は惨敗。Ploom TECH(プルーム・テック)は、iQOS(アイコス)の方式を真似て作られた製品のようです。
現在、実店舗で販売されているのは福岡県と東京都のみですが、2018年には全国で販売開始予定。なお、JTの公式オンラインショップでも販売されています。
連続で吸うことが可能でクリーニング不要なところがユーザーに受けているようです。
glo(グロー)/BAT
glo(グロー)は、ケントやラッキーストライクを販売しているBAT(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)の加熱式タバコです。
iQOS(アイコス)、Ploom TECH(プルーム・テック)に次いで発売され、iPhoneなどのアップル製品に似たデザインが特徴です。
現在は東京(青山)、大阪(梅田)、宮城(仙台)のgloストアで販売されているようです。
なぜ加熱式タバコが持てはやされているのか?
では、これらの加熱式タバコがなぜ持てはやされているのでしょうか? その理由はいくつかありますが、概ね以下のものが考えられます。
1:人気テレビ番組で紹介されたから
最も大きい理由はやはり、テレビの影響でしょう。
前述のように、テレビ朝日系のバラエティ『アメトーーク』で紹介されて一気に認知度が高まりました。
しかも同番組が放送されたのは翌日からGWという絶好のタイミングだったために、ネットから在庫が一気になくなる等の社会現象とも呼べる状況にまで発展しました。
2:煙に含まれる有害物質が軽減されているから→実際は異なる
実際は全く軽減されていませんが、メーカーは『副流煙に含まれる有害な物質が軽減または排除されている』としています。
※ニコチンは含まれているが、その他のタールなどの有害物質はカットされている。
後述するように、煙に含まれる有害物質は全く軽減されておらず、従来のタバコ同様に非常に危険なものなのですが、このメーカーの発した情報を喫煙家は安易に受け入れているようです。
3:タバコ臭がつきにくいから
従来のタバコに比べて煙の発生を軽減するので、タバコ臭がつきづらいというメリットもあるようです。
洋服をはじめ、カーテンや壁紙にも臭いがつきづらいため、リビング等でも吸えるとの意見もあるようです。
しかし実際は、従来のタバコとも違う特有の煙の臭いを嫌う人も多く、喫煙者から見た一方的な理由に思えます。
4:見た目がスマートなため
従来のタバコとは一線を画した、最新のガジェット(デジタル小物)のようなデザインも受けているようです。
大手価格比較サイトや通販サイトのレビュー内でも、デザインについて必ずといっていいほど触れられており、洗練されたデザインにも注目が集まっています。
加熱式タバコは本当に安全なのか?
では、本当に従来のタバコのデメリットは解消されているのでしょうか? 答えはどうやら「No」のようです。
ここからは、タバコメーカーが加熱式タバコを安全とする理由と、その主張の反対となる研究例をご紹介し、加熱式タバコの健康被害について書いていきたいと思います。
タバコメーカーが加熱式タバコを安全とする理由
はじめに、タバコメーカーの主張ですが、『タバコの煙に含まれる有害物質のほとんどは、タバコ葉を燃やした時に熱分解によって発生するが、本商品は燃やすのではなく熱を加えるため、そうした有害物質はほとんど発生しない』とのこと。
確かに、タバコの有害物質のほとんどは、タバコが燃やされたときの熱分解によって形成されることは科学的に証明されています。
それに対し加熱式タバコは、タバコ(タバコ葉)を燃やさずに、”加熱”することによってニコチンを発生させるため、こうした有害物質を大きく軽減(9割ほど軽減できると主張)し、周囲に有害な副流煙を撒き散らすことが少ない、としています。
かつ、従来の燃焼式タバコの喫煙の感覚を損なうことなく、タバコを味わえるともあります。
※なお、タバコの煙に含まれる有害物質の数は7357種類もあると言われています。
実は有害物質をカットできない!従来のタバコと同じくらい危険な加熱式タバコ
しかし、この主張に対する研究が今年5月26日にReutersに掲載されています。
※参考:‘Heat-not-burn’ cigarettes still release cancer-causing chemicals Reuters
これはスイスのベルン大学によって行われたもので、加熱式タバコが、従来のタバコよりもはるかに高い濃度で化学物質(ニコチン等の有害物質)を放出したとのこと。
(研究対象となったのは、マールボロ社のiQOSです)
同大学の主任研究者、レト・アウアー博士は、
- 加熱式タバコの健康被害に関する研究は、より長期的に行う必要がある(まだ研究が不十分)
- 加熱式タバコを吸っていない場合の健康への影響も調べる必要がある
…とも述べていますが、「健康被害が明確になるまでは、iQOS等の加熱式タバコの使用はより規制されるべきだ」とも警鐘を鳴らしています。
加熱式タバコで引き起こされるかもしれない健康被害
では、加熱式タバコに従来のタバコと同様の有害物質が含まれるとすれば、具体的にはどのような健康被害が予想されるのでしょうか? 一例を簡単に箇条書きでご紹介します。
- 肺ガンをはじめとする、全ての種類のガン
- 化学物質過敏症
- 気管支喘息、気管支炎
- 心臓病全般(心筋梗塞、狭心症など)
- あらゆる肺の疾患(肺炎、COPDなど)
- 脳梗塞
- ペルテス病
- アトピー性皮膚炎
- アルツハイマー
- 発達障害
- 知能低下
- ADHD
- 知能低下
- 加齢黄斑変性
- 難聴
- 虫歯
※参照:『子ども同乗車で喫煙したら罰金最大13万円!スコットランドの受動喫煙対策』から引用
受動喫煙対策など、規制が進まない日本
そしてもうひとつ重要なことが、これだけの健康被害が明らかになっておきながら、日本では受動喫煙対策などの規制がなかなか進んでいないということです。
路上喫煙を禁止する各自治体の条例はありますが、政府はほぼ関与していません。その条例で定められた罰金額も少額で、実際はほぼ機能していないようです。
これに対し、受動喫煙対策の先進国として知られるスコットランドでは公共の場所での喫煙が全面的に禁止されており、罰金額も高額です。
以下は日本(千代田区)とスコットランドの喫煙に関する規制の比較表ですが、これだけの差があります。
スコットランド | 日本 | |
---|---|---|
喫煙が禁止される場所 | ①全ての公共の場 ②18歳未満の子どもが同乗する車内 |
公道 |
例外となる場所 | 一部の喫煙所や、末期患者を預かるホスピス等 | 公園・車内・私有地・飲食店など多数あり |
罰金額 | ①個人:7000円、企業・団体:36万円 ②1.3万円、最大で13万円 |
2000円 |
※上記の比較表は『子ども同乗車で喫煙したら罰金最大13万円!スコットランドの受動喫煙対策』から引用したものです。詳しくは同記事をご覧ください。
スコットランドでは政府主導でこうした対策を行っているのに対し、日本では増税案程度なもので、以前に改正案が出された飲食店での全面禁煙法案も、各方面の反対に合い延期されるほど。
大変残念なことに、日本とスコットランドの喫煙者の意識の差には天と地ほどの開きがあるのが現状のようです。
まとめ:加熱式タバコ増税でも、日本人喫煙者の『意識改革』がより重要
以上にように、加熱式タバコは従来の燃焼式のタバコと変わらず危険なものです。
各メーカーの言う『副流煙やそれに含まれる有害物質の削減に繋がる』という情報も、嘘ではないかもしれません。
しかし、自社の製品を悪く言うはずはありませんので、恐らくは自社に都合の良い状況での研究・データの取得を行っている可能性が高いように思います。
メーカーの言うことが全て誤りだとは考えづらいですが、『従来のタバコと変わらず、有害物質を排出する』という調査結果が出ていることも事実。
こうした情報がある以上、メーカーの主張を100%信頼して周囲に迷惑をかけないだろうという思い込みは危険です。
嫌煙者からすれば、加熱式タバコのあの特有の臭いは極めて不快なもの。
その上、従来のタバコと同じ有害物質を出すのだとしたら、加熱式タバコを吸う利点など何ひとつありません。
これこそ、従来のタバコが売れなくなったから新しいタバコをという『経済第一主義』の典型。
増税自体は確かに悪くはありませんはが、日本人の喫煙者の意識がもっと変わらない限り、タバコによる健康被害は消えないのではないでしょうか?
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